6月のおたより、色と虫と偶然と

6月のある日。イラストレーターのサイトウマサミツさんが、Cafuneにドローイングに来てくださった。
爽やかな5月の数日は足早に過ぎ、一気に蒸し暑さに包まれ、蚊も飛び始めているにもかかわらず、ぐんぐんと緑の中に分け入るサイトウさん。
鬱蒼とした緑を、赤と青で描いてゆくサイトウさん。サイトウさんらしい色遣い。あらためて、目に映る色ってなんだろうと思った。
Cafuneの守り木のコブシ(マグノリア)は、サイトウさんの色遣いと筆致によって、よりいっそう生き物らしく見えてきたのだった。
さっきまで真っ白だった紙に、どんどん景色が生まれていく。絵の面白さは、そんな瞬間を見られる体験。
写真は、記憶のシャッターでは捉えきれない瞬間を落ち着いて眺められる喜びがある一方、
絵は描き手がどう見えたものを描いていくか、垣間見えるような気がして面白い。
サイトウさんの心の目で捉えてくれたCafune を置いて行ってくれた。

サイトウさんとは、コロナの頃にインスタを通じて知り合った。私が息子の描いた鳥の油絵をアップした際に、サイトウさんがコメントしてくださって、気になってアカウントを拝見したら、カフェで本を読む人、通勤途中の人、駅で誰かを待っているであろう人。
それぞれの時間、といったやさしい空気が流れていて、ステキだなぁと思ったのだ。その中に鳥や花や猫も。
以来、ご縁あり、J-WAVEの私の前番組「GOOD NEIGHBORS」にゲストお迎えしたり、
現番組「TALK TO NEIGHBORS 」のイメージイラストも手掛けていただいている。
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Cafune は、崖と山を背負っているので鬱蒼とした中にあるのだけれど、不思議と風がよく通り抜け、昨年の夏も思ったほどの暑さはなく過ごせた。
コブシ、金木犀、楓、枇杷といった木は、樹齢いくつか、やけに大きく、それらの木々のおかげで、大地の湿気を吸い上げて気化熱が発生し、森のような涼やかさが生まれているらしい。
蜘蛛や虫は、もちろん多い。私はすっかり慣れたが、むしろ、東京に住んでいた時に、本当に見かけなかったなぁと思う。
虫が多いということも、緑が活き活きしている要因なのだろうなぁ、と感じるこの季節である。
うっかり蜘蛛の巣に引っかかり「う。。」と一人で声を出すこともあるけれど、そんなことはどうでもよく、雨上がりに、水滴がダイアモンドみたいにキラキラとした蜘蛛の巣は、毎回立ち止まるほどに美しかったり、目を見張るきれいな色合いのデザインの虫たちが、静かに営みを続けている様子を見ると、つい見入ってしまう。

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先日、知人がアメリカから一時帰国した親戚家族を連れて鎌倉に来るとのことで、時差ボケもまだ覚めない状況で少し鎌倉観光をしたあとは、喧騒を離れ7人でCafune にやってきた。
しばらく話をしたあと「庭に出てもいいですか?」と。
伺えば、なんとご夫婦、フロリダの大学でご主人は虫の研究者、そして奥さまは蜘蛛の研究者!願ってもない専門家の来訪。
お二人は子供達を連れて、庭でいろんな虫を見つけては写真を撮り、私たちにも見せて教えてくれた。
目に見えるようなサイズの虫は、私も時折見かけてはいたが、擬態する虫や、ミリ単位の、ほぼ目視できないようなミクロな虫をパッと見つける強者ぶりに感動。
よく知った場所が、一気に違う場所に感じられ、新しい目をもらった気分だった。
経験と知識と探究心。でも、一番見ていて素敵だったのは、研究者のお二人が、とにかく、虫や蜘蛛が大好きだということ。
何匹か大切に、持ち歩いている虫籠に入れて帰っていった。何かを大好きで目を輝かせている大人っていいね。

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さて、どんどん話は続いてしまうので、そろそろこのへんで。
Cafuneは、譲り受けることになった築90年以上の空き家をリノベーションすることが最大の目的だったわけではなく、私自身にとっては、暮らす土地をよく知ること、能動的に自然と関わってゆくこと、それがどういう影響が生まれ、どんなものを生むことにつながるのか、とても興味があったから。
そんな空間から誰かと繋がっていったら面白いだろうな、と思ったから。
絵や写真、歌や音楽、工芸やデザイン x Cafune。
会話をたくさん重ねていけたらと思っていますので、何かあるときにはお知らせしますね。楽しみにお付き合いいただけたら幸い。
7月もどんな月になって行くのか?!この暑さにバテぬよう、気をつけつつ、木陰探して、風を浴びて、よく飲んで!夏は夏で楽しみましょうー。
ではまた。
クリス智子
