焦げ目がついて、美味しそうになっていく鍋敷き「ベーグル」にまつわるあれこれ。
高橋工芸さんの鍋敷き「ベーグル」をデザインされた、手工業デザイナーの大治将典さん。
Cafuneには、まだボロ家を躯体の丸裸にした3年ほど前に一度見に来ていただいて、それ以降も色々と相談に乗っていただいています。
改めて、Cafuneにて、ベーグルにまつわる様々なお話を伺いました。
大治将典さん:
クリスさん、「ベーグル」ってどれぐらい前から使っているんでしたっけ?
クリス:
大治さんを知るきっかけが、
そもそも高橋工芸さんのベーグルだったので…いつ頃だろう。
多分、都内に住んでいた頃、中目黒の小さなショップで、
素敵!と半ば衝動的に手に取って。
その時に、大治さんっていう方がデザインされたんだと思ったことをよく覚えています。
大治将典さん:
デザインしたのが2009年とか2010年なので、
ほんと、すぐの頃ですね。
旭川に足繁く通っていた頃に高橋工芸さんと知り合ったんですが
当時はKami glass 木の薄いコップしか作っていなかったんですけど
その頃、もう一人の方と僕がデザイナーとして入って。
商品の構成を色々考える中で、飲み物の木の器Kami glassシリーズ、
卵の殻をイメージした食べ物の木の器 Caraシリーズ、
そしてもう一つ Kakudo というシリーズを作りました。
高橋工芸さんの機械の特徴を活かして作る道具のKakudoシリーズを考え、
僕はKakudoとKamiを担当したんです。
クリス:
Kakudoシリーズのベーグル。
Kakudoにはどういう意味が込められているんですか?
大治将典さん:
NCルーターという機械のドリルの刃の角度のつけ方で、できるものが違うので
Kakudoと名付けたんですが、
たとえば他にはバターケースや鍋敷を作りました。
クリス:
大治さんはそもそも、なぜ、旭川に通っていらしたんですか?
大治将典さん:
旭川は、もともと家具の産地なんですよ。
家具のパーツを作っているメーカーがたくさんあるんですけど、
そこから独立して、クラフトの作家やメーカーになっていたりして。
家具はすごく有名だけれど、
クラフト作家やクラフトメーカーのまとまりを作って、
何かしようね、という話があり
“クラフト改造計画”というのが始まったんです。
僕は、ひとり問屋の日野明子さんの紹介で、呼ばれて行きました。
クリス:
日野さん!
大治将典さん:
全部の作家さんやメーカーをヒアリングしたのですが、
その中で高橋工芸さんと僕らの相性が良かった。
それで、仕事をすることになったんです。
他のメーカーにもアドバイスはしながら、
最終的には東京の展示会で紹介するというのが
その時のゴールだったのですが、
高橋工芸さんとは、それ以降も仕事をするようになって。
クリス:
旭川はもともと家具の産地という素地がある中、
そのタイミングは、テコ入れが必要とされた時期、だったのでしょうか。
大治将典さん:
そうですね。
高橋工芸では、椅子の丸い木の脚とか、
家具の丸い木のつまみとか、回転体のものを作っていたんですけど、
だんだんそういう注文も減ってきて。
先代の時に作った木のコップが国内旅行ブームの時に、
北海道のお土産さんで売れるようになって。
それはそれで良かったんですけど
現社長が会社を継いで、北海道の現状を見て回った時に、
このままでは長く続かないと。
お土産物としてモノを売っていっても先がないかもという思いもあって
国内ないしは世界を見て、
ものを作らなくてはいけないとなったんですよね。
クリス:
感覚的なことで申し訳ないですけど、
木工、というもの自体のイメージがすごく変わってきたような気がしています。
と言うのも私自身、暮らしの中に
木の器やカトラリーを取り入れることが多くなったんです。
木工だけれど、シュッとしている佇まいと言うか…
デザイナーさんたちが入ることの違いも
あるような気がするんですけど、どうなんでしょう?
大治将典さん:
歴史からいうと戦後とかは民藝ブーム、クラフトブームがあって
もう少し“味のある“というのが70年代80年代あって。
90年代に入る前ぐらいに赤木明登さん、三谷龍二さんといった
生活工芸派の方が出てきて、
もっとシンプルで、でも素材感があっていいものを作ろうよ、
ということが大きな流れがあった。
そのあたりから、ゴリゴリ味を出すというところから
シュッとしたデザインになったのかも。
クリス:
なるほど。
高橋工芸さんとのモノづくりはどうしていったんですか?
大治将典さん:
僕は、高橋工芸さんのKami glass を見て、
この良さに沿ったものを作ろうというところから
デザインに入ったんですね。
メーカーによって、向かいたい方向や材料の特性もあるので
そこに合わせてやっています。
クリス:
高橋工芸さんの使っていらっしゃる素材は
北海道産の木材なんですよね。
大治将典さん:
そうですね。
僕がデザインしたベーグルとバターケースは、
もともと家具を作るので輸入材があったこともあって
最初のうちは輸入材を使っていたんですけど、
できれば国内のでという思いもって
近年、高橋さんが頑張って、すべて北海道産に変えました。
クリス:
たしか、ウォールナットとイタヤカエデ…
今回、Cafune & pieces でご紹介させていただくのは
私も愛用しているイタヤカエデを選んでいます。
大治将典さん:
北海道のイタヤカエデ。
イタヤカエデは硬いし、長持ちする素材なんですよね。
クリス:
そうしたモノづくりでの素材のこだわりの場合、
採れる量などもあるから、自然とのやりとりになりますよね。
大治将典さん:
そうですね。
輸入材が高くなったのもあるけど、
巡回型経済を作りたいという思いもあるので。
クリス:
日本全国あちこちで、職人さんたちとお仕事をされ、
職人さんの良さ・機械の特性・技術などがある中
そこにデザインを入れていくことで、
職人さんたちのモノづくりへの気持ちも
変わるのではと思いますが、
大治さんご自身が感じるところはありますか。
大治将典さん:
僕が関わってきているところは伝統的な産地が多いので
作ってきたものを作るとなると
どういう風に使われているかを知らないし、
どうなっていくかも、
長くやりすぎているとわからなくなることもあって。
でも用途がなくなっていくものは、
だんだん細くなっていくので。
今ある作り方や扱う素材はなるべく変えずに
用途を変えようということを、いつもまず考えています。
そこから入っていくと 作っている人もそういう風に見始めるんですよね。
クリス:
ベーグルはどんな風に誕生したんでしょうか。
大治将典さん:
Kakudo シリーズのアイテムを考える時に
鍋敷きを作りたいねと言う話が出て。
でも、木の鍋敷きだと
どうしてもフライパンを置いたら焦げてしまうしといった
マイナス要素もあるんだけれど
それを何かプラスに転換できないかなと思って、
名前をベーグルと。
クリス:
いやぁ、その発想、ネーミングの妙!
まさにそこにやられましたもん。
使うほどに焦げ目がついて、より美味しそうになっていく、という…
食いしん坊の発想ですね(笑)。
大治将典さん:
モノのつくりの良さに加えて、
ストーリーの良さや見立ての良さも
デザインの一部分なんですよねぇ、きっと。
キッチュすぎると、一過性になる可能性もあるけれど、
ちゃんとその素材の特性に合っていれば
ベーグルも10年以上生産され続けているし
長生きするものになるのかなぁと。
クリス:
たくさんある鍋敷きの中で、
これだ!と思ったものに出会えた喜びがありました。
最初は、やっぱりストーリーなんですよね。
<触ると気持ちいい!>
クリス:
買った後に、また色々気づくわけなんですけど、
キッチンでも、木だけに違和感がないというか。
自然と馴染むし、使いやすさも感じるわけですけど、
このベーグルは、とにかく触ると気持ちよいことに驚いて。
“触るためのもの”として、
キッチン以外の場所にも、各所置いておきたいぐらいです。(笑)
大治将典さん:
木って、触るとやっぱり一番気持ちいい風合いなんですよね。
木のものって、最後の仕上げで、
つるつるピカピカに磨くって
ものすごい手間なんですよ。
なかなかできない部分を頑張ってやるということが、
モノの価値や生活の価値を上げるんですよね。
クリス:
そうかぁ…このベーグルの触り心地に感動したのは、
そうした手間を惜しまない作り手に姿に
心を打たれていたんだなぁ。
<◯というカタチ>
クリス:
今回、Cafune & piecesでは、
“まあるい”というキーワードを設けてみたんですけど
大治さんにも伺ってみたくて。
デザインをされるとき、◯の良さはありますか。
大治将典さん:
造形のことで言うと、一番単純で作りやすい形。
中心点があって、半径があれば作れるので。
シンプルな道具で作れるし。つまり、効率がいい。
それを活かせるのであれば、◯はいいなぁと。
四角いものって、
ほとんどは使い勝手からきているんですよね。
ここにピッタリ収まる、とか。
でも四角いものが作りやすいものもあって、
そうじゃないものもあります。
<暮らしの道具>
クリス:
Cafune & piecesでは、
暮らしの中で使うものの良さってなんだろう、
ということを楽しみながら考えつつ
提案していきたいと思っていまして。
暮らしの中で使うものって、
機能から入るものもたくさんあると思うんですけど、
私自身、買う時には機能から入ることは少ないんですよね。
大治将典さん:
僕もデザイナーだけど、そういうところあるかも。
もっと掘り下げてプリミティヴに考えると、
その素材と一緒にいるのが気持ちいいとか、
相性がいいみたいなことがあると思うんですよ。
人同士だけでなくて、モノにも。
このモノと一緒にいたいなぁという魅力が備わっていないと
どんなに機能的でも、いつか使わなくなってしまうので。
自分が惹かれるなぁという素材とカタチ側から入って、
そして機能面を見て。
双方の折り合いがつくところがあるモノは、
その人の家で長生きするモノになるんだと思います。
どちらか片方だと、いなくなる可能性がある。
タッチポイントが少ないと、人は忘れていってしまうので。
関わる度合いが多いものってなんだろうと考えると、
自分が元気になるとか、バイブスみたいなものを信じていて。
アートとかも同じだと思うんですけどね。
エネルギーがあるものもいいし、静かなものもいいし。
このベーグルの鍋敷きは、まさに眺めているだけで、
気持ちを撫でられるようなところがありますもんね。
ともすると、使うのがもったいない(笑)。
<ゲストプロフィール>
大治将典 Oji Masanori
Oji & Design 代表 / 手工業デザイナー
日本の様々な手工業品のデザインをし、それら製品群のブランディングや付随するグラフィック等も統合的に手がける。手工業品の生い立ちを踏まえ、行く末を見据えながらデザインしている。ててて協働組合共同創業者・現相談役
<お知らせ>
自宅用にはもちろん、贈り物用にも
今までいくつ買ったかわからないというほど
クリス智子がお気に入りの鍋敷き「ベーグル」。
今回はイタヤカエデ素材の「ベーグル」を
8月28日(水)21時にオープン予定のCafuneのECサイト
「Cafune & pieces」にて販売いたします。
焦げ目がついて、美味しそうに育っていく鍋敷
高橋工芸Kakudoシリーズの「ベーグル」。
どうぞ、おたのしみに!