日常使いできるアートを。林彩子さんと器の話。
クリス智子のご近所さんで、友人でもある林彩子さんは湘南海岸公園でAt Home Worksというアトリエを主催する陶芸家。
ふらりと立ち寄ったセレクトショップでたまたま手にとったマグカップが、彩子さんの作品だったことも。
自分の心持ちを良くするために、生活の中でわたしたちは日々いろいろなことを選択している。
生活の中で欠かせない食に寄り添う器は、日々の食卓で人の心を小さく動かし続けているもの。
どの器に盛り付けるか、何でお茶を飲もうか。大きさ、手触り、色の組み合わせ。
心惹かれた器があるだけで、なにげない日常がぐっと楽しくなる。
心動かす器づくりの背景には、どんな思いがつまっているのか。
林彩子さんに、クリス智子が訊きました。
彩子さん:
いろんな色が好きで
作品もいろいろ作りたくなっちゃうんです。
ブルーグレーみたいな青は、結構作ってますね。
作家さんによっては
一点集中で作る方もいらして
羨ましくなるんですけど。
わたしは同じ仕事だけ繰り返していると
自分が飽きちゃうというか
新しいものを見たくなっちゃうんです。
クリス:
展示会によっては、色を絞っていらっしゃいますよね。
こないだ茅ヶ崎の熊澤酒造さんでやった個展のときには
青に絞っていらっしゃった。
彩子さん:
はい。
熊澤酒造さんは、ギャラリーの方と作家が話し合って
どんな展示にしていこうって
イメージを作り上げていくタイプの
2年前に個展をご一緒した時には
ちょっと絵画的な感じにしようって話をして
白化粧の作品と自分で描いた絵を一緒に飾って。
次はどうしようかと相談しながらやったのが、
クリスさんにも来ていただいた個展で。
ブルーグレーとか
全体的に青に寄せたトーンで
作品を揃えてみようかという話になりました。
クリス:
彩子さんが一番最初に陶芸を始められた時の
作品の色はどんな感じだったんですか?
彩子さん:
白化粧といって、赤い土に白い泥を塗るものと、
あとはヌガーという白い土にいろんな色が入っているタイプ。
この2種類はずっと作っています。
*白化粧
(しろげしょう)とは、色のついた胎土に白色の化粧土を塗る技法のこと
*ヌガー
マットな白地にカラフルな手描きのドットが入った林彩子さんオリジナルの器
結構、印象が違っていて
シャープで色が綺麗なタイプと
ざっくりした土物の感じと。
雰囲気が全然違うんですよね。
陶芸を始めた最初の頃は、
どちらかに作風を絞った方がいいんじゃないかって
先生にアドバイスをもらったこともあったんですけれど。
私、どっちも好きだったんですよ。
こっちはこっちじゃないと出せないものがあるし
どちらかに絞るって言われてもなぁと思いながら
結局、両方やっていました。
最初の頃は、けっこう迷っていましたね。
作品ってなんだろう、
自分らしさってなんだろうって考えた時に
陶芸の一番いいところって
「使える」ところだなと思ったんです。
アートって、飾ってあるだけで素晴らしいじゃないですか。
それを見て人の心が動いているわけだから
アートも「使って」いるんですけれど、
一般の人が絵画やアートを買うって
やっぱり、ハードルが高いですよね。
特に日本人にはその習慣があまりない。
クリスさんは元々、アートがお好きだから
飾るという発想もあると思うんですけれど。
それに比べて陶芸って
手に取りやすいなと思うんです。
「使う」
から、この値段を出してもいいなと思える側面もある。
クリス:
確かに身近で
手を伸ばしやすいものですよね。
彩子さん:
毎日使えるものでもあり、
「心が動く」という
最もアートで大切なところを、
器に触れながらほんとうは
日々しているとも言える。
アートを買うのだけれど
同時に使えるというところが
すごく独特というか
陶芸の作品の最大の魅力なんじゃないかと。
クリス:
なるほど。
彩子さん:
そう思った時に、自分らしさってなんだろうと改めて考えたんです。
結果、
土を感じるような質感だったり、
銅版画みたいなかすれ具合だったり。
色彩の組み合わせだったり、
形のバランスで表現するものだったり。
そういう絵画的な要素が
自分が大切にしている部分だなあと。
それは用の器でもオブジェでも、関係がないんですよね。
伝えたいことの本質はアートも陶芸も一緒なんだなって気がついたんです。
クリス:
確かにその気持ちの根本は
一緒かもしれないですね。
まさに今、Cafuneでやろうとしてることも
アートとか飾り立てることが
目的では全然なくて。
気持ちを込めて使えるものに出会えると
毎日使っていて、触れていて
やっぱりこれ好きだなと日々思える。
そういうことを日常で繰り返すことは
わたしは同じ仕事だけ繰り返していると
自分が飽きちゃうというか
新しいものを見たくなっちゃうんです。
とても美しいし、
わざわざそういう気持ちを
誰かに言うことはなかったとしても
結局は、自分の気持ちも
大切にすることにもなるんじゃないかと。
彩子さん:
そうですね。
クリス:
Cafuneから伝えていきたい
自分が大事にしたいと思えるものの中で、
今回は彩子さんに白い器をお願いしたんですけれど。
最初、大きさもいいし
人が来た時にちょっと出しやすいサイズだなって。
試しに何枚か買ってみようと思って。
自宅で使っていたら、
やっぱり使い勝手がすごくいいんですよね。
あと触っていてすごい気持ちがいい。
彩子さん:
とっても嬉しいです。
わたし、器は「日常使いできるアート」というテーマで作ってるんですよ。
でも、器というものを作る以上は
やっぱり使い勝手も大事ですよね。
質感や重さ、形のバランスだったり。
全てが日常の心地よさにつながるから、
使いやすさは大事にしなきゃいけないところだと思っています。
クリス:
自分で試作をして、使ってみたりして
ひとつずつ確認をしていくんですか。
彩子さん:
まずこんな感じにしたいなってイメージが湧くじゃないですか。
基本的には全部、土も何種類か試しながら作っていって
自分が作りたい雰囲気に近いかどうかをまず確認する。
焼き上がったら、自分でまず使ってみて
これは経年変化によって汚れが入りやすいんじゃないかとか
欠けやすくないかとか、重さのバランスはどうかとか。
他の器との組み合わせはどうだろうということも考えながら
しばらく使ってみて、
これはいいな、自分だったら欲しいなと思えたら
実際に作品を作り始めていきます。
クリス:
コップとかお皿って、
すでに山のように世の中にあるけれど
その中から私だったらこれが好きって思うわけじゃないですか。
彩子さん:
そうですね。
クリス:
何かを生みたいっていう気持ちで
作品と向き合う時に
自分らしさの部分てどうされているんですか。
彩子さん:
らしさのところを皆さんはどう感じてるのか。
他の作家さんたちは
どんな風に考えていらっしゃるのかは分からないですけれど
おそらく、そぎ落としてそぎ落として
できるだけ「私らしさ」を出さないところで
やっとバランスが取れているような気がしているんですよね。
ちょっとでも、私らしいところを残そうと思うと
何かしら少し強い気がしていて。
そぎ落としても結局
なにか、ちょっと出るんですよね。
人が作ってる以上。
それぐらいにしないと
エゴが出ちゃうなと思うんです。
クリス:
あぁ、そういうところが
わたしは好きなのかもしれない。
稲村ヶ崎の駅前に
ちょっとしたセレクトショップがあるんですよ。
たまたまそこに寄って、妹のプレゼントを探していたら
可愛いマグカップがあって。
結局、自分のためにそのマグを買ったんだけれど
ひっくり返して作家さんの名前を見たら
彩子さんのだった(笑)。
たまたま出会って選んだものが彩子さんの作品で
びっくりもしたし、なんだかうれしかったんですよね。
わたし、やっぱり好きなんだなって。
彩子さん:
ありましたね、そんなこと。
すごくうれしかったです。
クリス:
削ぎ落として、削ぎ落として残る
「らしさ」というお話をされてましたけれど
私は多分、その部分を感じ取ったのかもしれないですね。
何か、これ好きだなぁの中に。
彩子さん:
なんといいますか、
「誰でも作れるんじゃない?」のギリギリなんですよ。
削ぎ落としすぎて、
誰でも作れそうなところとのギリギリのライン。
クリス:
わたしも、そういうギリギリのライン、
大切にしているところかも。
ゲストのお話に反応することだけでも、
らしさは絶対に出ると思っているので。
彩子さん:
ラジオを聴いていると、
ほんとにそうですよ。
クリス:
話す、って何か、という根本のところになってしまうんですけど。
彩子さん:
改めて言うのもなんですが、わたしずっとクリスさんのファンなので。
ながくラジオを聴かせていただいていますけれど
相槌ひとつ、相手の方の話を聴く時の間ひとつからも
クリスさんの人柄がすごく伝わるって
ずっと思ってたんです。
クリス:
そう言ってもらえて嬉しい。
ラジオにしても器にしても
毎日触れるものって、
そこに「わたし」が入りすぎると
ちょっと疲れちゃうのかもしれないですね。
作為的じゃない部分に
らしさが出るんですかね。
彩子さん:
以前、「娘がとても繊細なんです」というお客様が個展に来てくださったことがあって。
作品を買いたいのだけれど
物からもいろんな影響を受けてしまう子なので
どう反応するかなぁとそんなお話をしながら
器を購入してくださったんですが、
結果、娘さんがとても気に入って
彩子さんの器はそばに置いておきたいと思えたって。
後日お二人で陶芸教室にも通ってくださるようになって。
とても嬉しかった。
そういうことは励みになりますよね。
らしさをギリギリに
気配を殺してきて良かったと思いました(笑)。
クリス:
それは、とてもうれしいですね。
ものとの相性って、存在する気がします。
長く付き合うものとそうでないもの。
なんかこう淘汰されて、付き合いが長くなるものって
明らかにあるんですよね。
人生の中で普遍的というか。
そういうものを作為的に作ろうとすると
きっとまた違うものになってしまうんでしょうけれど。
彩子さん:
手に取っていただけるものって、
見えないなにかの部分が確実にありますよね。
クリス:
彩子さんの作品は触れていて
気持ちがいいんですよね。
作品の形っていうのは
どんな風に思いついて、
どういう風に決めていくんですか?
彩子さん:
最初に形が浮かぶ時は、
こういうのがあったらいいなという思いがあって
作り始めます。
自分のアイテムの中に
この形がないなという出発点で
作りはじめるものもありますし。
例えば、
昔のそば猪口のサイズ感の器がいいなと思って作り始める。
コーヒーでも緑茶でもデザートを入れても
いいなと思えるサイズ。
取っ手がない形で、
スープを入れてもいいしっていう風に
想像をつなげていって、
形を作っていったりもします。
クリス:
彩子さんの器を買う時って
これに何をいれようかな、どう使おうかなって
自分の想像力を刺激される喜びがあります。
これはコップですって機能優先の器とは
ちょっと違いますよね。
懐が深いというか。
アンティークとか昔のものって、
そういうところがあるじゃないですか。
彩子さん:
ありますね。
クリス:
いかようにでも、使い手の使い方で決まっていくみたいな。
ものと向き合う時には
そういう自由な発想は持ち続けていたいですよね。
彩子さん:
クリスさんは、まさにそういう方ですよね。
同じものでも、違う目的を持って
他のものにとらえ直すことができるというか。
見立ての人ですよね。
クリス:
いやいやいや(笑)。
そういう、使い手の自由さを導いてくれる感じが
彩子さんの作品にはあるんですよね。
こうでもいいし、ああでもいいしって
使い手側の自由が許されてる感じが気軽で、
違うことを想像する楽しさを感じさせてくれる余白がある。
彩子さん:
余白を残したいなって
いつも思ってます。
クリス:
今回の白いお皿も
調味料を入れたり
ちょっとポテサラ入れてもいいし
フルーツやお菓子でもいいしって。
彩子さん:
そうなんです。
この白いお皿も、
単体でプレートとしても使うことができるし
重ねてソーサーのように使っていただいてもいいし。
アイディア次第でどんなふうに組み合わせてもいい。
新しい作品を作る時は、
別のわたしの作品を買い足していただいた時に
違和感がないように馴染むようにと
いつも思いますね。
自分の中から出てきたものは
どの色の組み合わせでも、
質感が違っても作品同士の相性がいいんです。
クリス:
彩子さんの作品は、
買い足していく楽しみがありますもんね。
手にとってくださった皆さんが
どのように感じとって、どんな使い方をしてくださるか
わたしもとっても楽しみです。
<ゲストプロフィール>
林彩子(陶芸家:At Home Works主宰)
2010年独立。江ノ電がみえる湘南の地に、陶芸アトリエAt Home Worksを設立。「日常づかいできるアートを。」をテーマに日々作品作りを行っている。
<お知らせ>
日常使いできるアート、
陶芸家林彩子さんの白い小皿「fika plate」。
ポテトサラダなどのちょっとしたおつまみや調味料、
フルーツやおやつを入れるのにもぴったり。
玄関で鍵を置くトレイにしたり、
指輪やピアスをはずして置くトレイにも。
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「Cafune & pieces」にて販売をいたします。
どうぞ、おたのしみに!