竹内順平さんと梅干しの話。
CAFUNEという場所ができてからクリス智子が一番やってみたかった梅干しづくり。
近所の友人知人に声をかけ、梅のプロフェッショナル・バンブーカットの竹内順平さんにお越しいただいて、梅干しづくりのワークショップを行いました。
わいわいと賑やかに梅干しを漬けたあと、竹内さんにお話を聞きました。
竹内順平さん:
梅干しを漬けてみて、いかがでしたか?
クリス:
念願の梅干づくりでした。
毎年やりたい、しかしやれないっていうのがこの時期にずっとあったので。
このところの楽しみだったのでありがたかったです。
竹内順平さん:
クリスさん、梅を漬けるのは初めてですか?
クリス:
初めてなんです。
今日順平さんもおっしゃっていましたけど
干すのに3日ぐらいかかるじゃないですか。
私のこれまでの仕事のスタイルで考えると挑戦するのが難しかったんです。
土日に晴れる日が必ず続くという保証もないし、
雨が降ったらどうすればいいかのか
対処法も知らなかったので。
梅干しに挑戦するのは、
ちょっと今じゃないのかなと二の足を踏むことが長かった。
晴れた日に続けて干さなければいけないので
ラジオの生放送が連日昼にあるという
梅酒とか梅ジュースは作ったことはあるんですけど。
梅干しっていう「干す」という作業をやってみたいという気持ちが
ずっとあったんですよね。
マニュアルを読んだりすればできるのかもしれないけれど、
この場合はどうしたらいいですかって
疑問に思ったことをその場で訊けるから
ワークショップっていいですよね。
竹内順平さん:
毎年、梅干し作りキットの「梅子」を出荷したあとに各地で
ワークショップを行ったり梅を漬けるライブ配信を行っているんですが、
やっぱり配信だと質問に全部答えられなかったりするので
実際にお客様とお会いして、
対面でやり方をお伝えしていくワークショップに勝るものはないんですよね。
配信を見てから、わざわざワークショップに参加してくださる方もいらっしゃいます。
クリス:
私も生放送を長くやってきて、
まさに生だからこその会話っていうのがあるなと思っているんです。
その時やって来た言葉に、また言葉を返して会話になっていく。
今日も手を動かしながら
みんなで会話をしてるあの時間が
とてもいいなと思っていました。
きっと昔はこうだったんでしょうね。
旬のものの作業って量も多いから
みんなで話しながらやるっていうことが
ちょうどいいんだなっていうのを
今日、すごく実感しました。
よく知っている仲間や近くに住む友達が集まってやりましたけど
梅の作業をしながらだと、普段しない内容に話が飛ぶのも面白かった。
竹内順平さん:
僕が昔取材した方で、
そのお家の庭にものすごい梅のなる木をお持ちのお父さんがいらしたんですよ。
毎年、梅の収穫はお父さんの仕事。
「梅お好きなんですか?」って聞いたら
「梅、食えない」と。
梅干しは食べられないし、梅酒も好きじゃない。
だけど梅干しは漬けるし、梅酒も作るって。
お好きじゃないのになぜやるんですかと訊いたら、
「だって梅がかわいそうじゃん」とおっしゃる。
梅がかわいそうというだけで、毎年こんな大変な作業をやれるのかなと思って
その後、娘さんに訊いてみたんです。
お父さんが梅を収穫したら、お母さんと娘さん2人が集まってきて
梅を漬ける作業をみんなでやるらしいんですよ。
きっと、お父さんはその時間が好きだったんでしょうね。
クリス:
1年に一回のお祭り、なんかいいですよね。
自然に近いところで暮らそうと思うと
一人じゃできないことが多いんだって気が付いたんです。
我が家も小さいけれど畑があったり、みかんの木があるんですが。
みかんの収穫にしても、穫るときは誰かが支えて
籠に入れてまた違う誰かが運ぶみたいな。
梅の木もあるんですけど
今年もきっと梅干し作れないかもしれないなと思ってるのに
梅の収穫だけはしていました。
近所のお友達を呼んで、一緒に収穫するのが楽しい。
収穫をした後にその梅を漬けて食べられるって
すごいことなんだなって改めて思いました。
一連でやる面白さがある。
竹内順平さん:
乗松祥子という86歳の梅職人の方がいらっしゃるんですが、
70を超えたあたりから、梅を漬けるのは年に一回なので
あと何回しかつけられないって
逆算していくようになったとおっしゃっていて。
その年の自分の体調がいい
天日干しに適した天候である
梅の実がものすごくいい
という3拍子が揃う年は、12年に一回しかないらしいんですよ。
あともう一回、
自分がその12年に一回の年に巡り会えたらいいなってお話をしながら、
梅干しを作っていらっしゃったんですけれど。
桜があと何回見られるのかとかって
そこまでの実感は自分にはないんですけれど、
乗松さんぐらい自然と自分の人生がつながってるっていう実感を持てるってことって
素晴らしいよなと。
切ないけれど、あと何回しかないって
ある意味、生きてる実感でもありますもんね。
クリス:
そうですよね。
私は今日梅干しを漬けるのが初めてだから
塩もなんとなくこれぐらいでいいのかなとか
まずはやってみないとわからないだろうぐらいの感じでスタートしてしまったけれど、
塩で梅をこう撫でるとか、ここはちょっと塩を盛るとか
あの感じが面白かったです。
このあとどうなるんだろうっていう実験の雰囲気と
あと梅干しってちょっと待たなきゃいけないじゃないですか。
ここから待つっていうのが良いですよね。
料理は作って、わりとすぐに味の結果が出るけれど
この待たないと分からないっていうお預けの時間が
一番面白いんだろうな、ワクワクするんだろうなと思いました。
順平さんは、梅のお仕事をやり始めて何年目なんですか?
竹内順平さん:
梅のことを仕事にしてからは10年、
「梅子」という梅干し作りキットを作ってからは
今年で7年目ですね。
お話してきたように年に1回のチャンスなんですよね、
この梅干しを漬ける作業って。
ゆっくり梅を愛でながら
漬ける時間自体を楽しんで過ごしたいのに
それができない年は、なんだかせわしなく過ごしてしまっているなと思います。
クリス:
私も同じようなことを40歳を過ぎたくらいから
ずっと思っていました。
そういう時間を持ちたいのに持てないって
どういうことだろうとか、
やりたいと思ってるのにやれないってなんでだろうって。
本当にやれないのかなぁとか、
自分に時間を与えてあげられてないのかなとか。
梅干しは分かりやすい一つの例ですけど
インターネットの速度がものすごい速くなってるじゃないですか。
パソコンも速くなって、AIまでできて。
いろんなものが速くなっているのに
人間はなんでこんなに忙しいんだろうなぁって。
梅干しを自分の手で漬けたいとか
それこそレコードで音楽を聴きたいとか。
ゆっくりした時間の動きを
目で見るとか体感するっていうことができなくなってるから
よりそういう時間を喜ばしく感じるのかもしれないですね。
どんなに急いでも、梅干しは3日じゃできないとか。
待つことって面白いことですよね、本当は。
20年くらい前に直島に行ったんですけれど、
船は1時間に一本とか、タクシーは島に2台ですとか
急ぐこと自体できなかったんです。
でも、それが楽しいんですよね。
旅だからかなぁと最初は思ってたんですけど
待つってことや、誰かが遅れてきたとしても
そのぽっかり空いた時間に自分の時間ができるわけだから
全然嬉しいわけですよ。
竹内順平さん:
その感じ、分かります。
「打ち合わせ、15分遅れます。申し訳ありません」
っていう連絡が来ても
ゆっくり来てくださいって本当に思ってます。
ちょっとぽっかりのあの感じって
今、作りにくいですよね。
クリス:
ぽっかりの時間、
なかなか作れなくなっちゃいましたよね。
竹内順平さん:
時間といえば、
天日干しをした後梅干しは味が変化していくので
まさに時間を感じる食べものなのかもしれないですね。
クリス:
今日も友人の漬けた梅干しはどんな味になるんだろう
食べ比べをしたら面白そうって思いながら
作業をしていましたけれど、
それぞれに手をかけて作った食べものは
おいしいはずですよね。
去年もうちの畑でピーマンを作ったんですが
お店で買うピーマンとはやっぱり味が違う。
どっちもピーマンなのだけれど、
やっぱり自分で作ったっていうおいしさが加わっているんですよね。
その人にしか分からないものかもしれないけれど。
その感じを増やしていくっていうことを
私は今、すごくしたいと思っているんです。
味の価値観でいうと人ぞれぞれに違うから
難しくなってしまうんですが
その人の舌の記憶みたいなものも含めて
それぞれの人にとっておいしいとかたのしいことを
大事にしたいなぁと。
竹内順平さん:
分かります。
その方が飽きないですよね。
自分で時間をかけて作る楽しさとか、
その人にしかわからないおいしさという要素がなかったら
僕も梅干しの仕事を続けられなかったかもしれないです。
僕がどれだけ美味しい梅干しを見つけてきてご提供したとしても、
お客様のおばあちゃんの梅干しには勝てない。
今ここにクリスさんのおばあさまが漬けた梅干しがあったら
それを超える梅干しを
僕は提供できないと思うんです。
味はこっちの方が美味しいはできるかもしれないけれど
概念的に勝てないということが面白いというか、
人間の本質みたいな気がして。
クリス:
本当ですね。
これがどういうわけでどんな風においしいんですってどれだけ説明されても
違う時もありますもんね。
記憶とか、いろんな要素がおいしいにはある。
私のおばあちゃんも、梅干し漬けてたんだろうな。
私、梅干し好きになったの実は最近なんです。
今回、自分で漬けた梅干しもどんな風になるか楽しみ!
今日はありがとうございました。
<ゲストプロフィール>
竹内順平(プロデューサー)
たけうち・じゅんぺい / 株式会社バンブーカット代表。梅干しに魅了され2014年より活動をはじめる。2020年に「立ち喰い梅干し屋」、2022年には浅草に「梅と星」を開店。2024年7月11日には塩をブレンドするお店「ぐるぐるしゃかしゃか」をソラマチ内にオープン。商品開発やイベント企画など、幅広く活動している。
<お知らせ>
今回、Cafuneでワークショップを行った
梅干しづくりキット「梅子」の
ブレンド塩(国産の塩を4種類ブレンドしたもの)と
紀州産の南高梅で漬けた「梅子の梅干し」を
Cafuneにお裾分けしていただきました。
8月28日(水)21時にオープン予定のCafuneのECサイト
「Cafune & pieces」にて梅子の梅干しを販売いたします。
しっかりしょっぱくて、
炊き立てのごはんにぴったりな梅干しです。
どうぞ、おたのしみに!